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【コラム1】森弘子 「アスリートフードとしての大麦①」 (テーマ:雑穀)
アスリートは炭水化物の摂取に無関心ではいられません。どのような炭水化物を摂取するか、それは体作りだけでなく、試合の勝敗にも関わる重要なテーマなのです。例えば試合に必要なエネルギー摂取とその効率的な代謝の為に、持久的なスポーツを行うアスリートはカーボローディングを行います。これは試合の3日前から、炭水化物の摂取量を増やすとともに、ビタミン、ミネラルをしっかり摂取することで、体内にグリコーゲンつまり試合当日に必要となるエネルギーを蓄えておくというものです。あるいは試合直後のアスリートは、試合で消耗した体力を回復させるために、グリセミック指数が高い食材、つまり消化吸収が迅速な炭水化物を積極的に摂取します。このようにどのような炭水化物を、どのようなタイミングで摂取するかということがアスリートの栄養摂取の一つの鍵となるのです。
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特に炭水化物摂取に細心の注意を払わなければならないのは、減量期のアスリートでしょう。審美性を問われるスポーツ例えば体操やフィギュアスケート、体重で階級が分かれるスポーツ例えばボクシングを始めとする格闘技などでは、試合にあわせて、体重のコントロールを行わなければ行けません。しかもやみくもに体重を落とすと、試合でのパフォーマンスに影響が及んでしまうので、効率的に健康的に体重を落とすことが要求されます。近頃、低糖質ダイエットが流行っていますが、アスリートの場合、極端に炭水化物の摂取量を抑えてしまうと、練習に必要なエネルギーの確保や、筋肉の合成に不利な体内環境を作ってしまいかねないのです。つまりアスリートは、ただむやみやたらと炭水化物の摂取量を減らすことはできないのですから、どのような炭水化物を摂取するかという選択が必要になります。こうした場合にアスリートは、精白した米や、パン、麺類は選択しません。これらは、グリセミック指数が高く、急激に血糖値を上昇させると共に、急激な下降も起こしてしまうためです。血糖値が急激に下降し低血糖の状態になってしまうと、強い空腹感に見舞われるばかりか、ひどい時には意識障害まで招きかねないのです。 ……………………………………………………………………………………………………………………
そこでアスリートが積極的に選ぶべき炭水化物としては、グリセミック指数が低いもの、例えば精白されていない玄米や全粒粉、そして大麦があげられます。 ……………………………………………………………………………………………………………………
大麦の特筆すべき特性に食物繊維の多さがあります。しかも水溶性食物繊維と不水溶性食物繊維の双方をバランスよく含んでいるところに特徴があります。水溶性の食物繊維βグルカンは、食物の移動速度と、腸内での糖質の消化速度を遅らせることで、糖質の吸収を緩やかにします。つまり、急激な血糖値の上昇が抑えられるのです。 やはりグリセミック指数の低い玄米の場合は、不水溶性の食物繊維の含有量が水溶性より圧倒的に多く、排便を促すという点では優れていますが、糖質の吸収の抑制という点では大麦に劣るのです。 ……………………………………………………………………………………………………………………
アスリートにとって大麦が玄米より好ましい点の一つに、貧血への対応という観点があげられます。 アスリートは貧血のリスクにさらされています。アスリートの貧血は運動性貧血と呼ばれ、運動の際の酸素運搬能力が失われることでパフォーマンスを著しく低下させかねないので、貧血対策は必至です。アスリートの貧血にはスポーツ活動によって赤血球が破壊されて起こる溶血性貧血、食事からの摂取不足が原因となる、鉄欠乏性貧血があげられます。女性アスリートは特に鉄欠乏性貧血に注意しなければなりません。そこで積極的な鉄分の摂取が必要になります。しかし玄米に多く含まれるフィチン酸は鉄分の吸収を妨げてしまうのです。フィチン酸は穀物や豆類の外皮に多く含まれます。精白されていない玄米は、必然的にフィチン酸を多く含みます。そこで対策として長時間浸水させて発芽させる必要が生じます。一方、大麦は精白しても有効成分である食物繊維が外皮でなく胚乳に含まれているため、健康効果を失うことがありません。そこで手軽に浸水の手間なく、白米とともに炊くことができるというメリットがあります。貧血を回避しつつ、グリセミック指数を低く抑えられるという点で、大麦はアスリートの炭水化物摂取に大変ふさわしい穀物だと言えるでしょう。またアスリートの減量対策、貧血対策は一般の私たちにとっても有効な方法であることは言うまでもありません。 ……………………………………………………………………………………………………………………
Presented by スポーツ・スーパーフードマイスター 森 弘子 ……………………………………………………………………………………………………………………